西郷隆盛 第一巻 西郷隆盛 第一巻
海音寺 潮五郎   朝日新聞社   朝日新聞社  
海音寺文学の最高峰
歴史小説を読んでいて、私は主人公の過度な美化とか、鼻につく説教臭さなどを感じることが多かったのですが、この西郷隆盛は、史伝を得意とした著者が、西郷への思い入れはたっぷりありながらも、筆致は極めて冷静で、資料を丹念にたどって書いているので、安心して読むことが出来ます。残念なのは、著者が完結を待たずになくなってしまったことですが、未完の作品であるとはいえ、そのことがこの作品のおもしろさを全く損なうものではないことは、実際に読んでみれば分かることだと思います。

孫子 (講談社文庫 か 1-1) 孫子 (講談社文庫 か 1-1)
海音寺 潮五郎   講談社   講談社  
秀逸なる名作
 小説「孫子」は、孫武の巻、孫ピンの巻の二部構成で、孫子兵法の妙をリアルに描いたものであるが、人間の描写にも極めて優れていると思う。劣等感や名誉欲といった、人間の持つ愚かさや哀しさを十全に表していると感じるのである。
 例えば、孫ピンの親友ホウ涓。彼は確かに保身のために友を貶めた不義の人ではある。しかし彼にも苦しみはあったのだ。彼は実家のため何としても出世しなければならなかった。だから若い頃から必死に勉学に励んできた。ところが孫ピンは富裕な家に生まれ、ホウ涓と出会うまで遊び暮らしていながら、学問に目覚めるや、あっという間に才幹を発揮し、ホウ涓を追い越してしまう。どんなに努力しても超えられない天賦の才。これを孫ピンに認めた時、彼はどれほど悔しく苦しんだであろう。ホウ涓はその後苦労して魏の将となるが、その地位が安定した頃、孫ピンはふらりとやって来て、魏に仕官したいなどと言い出した。ホウ涓がやっとの思いで手に入れたものまで、孫ピンは奪おうというのか。このようにホウ涓が感じ、悪魔が心に入り込んだとしても無理はないだろう。
 肝心の孫武、孫ピンの性格設定も非常に興味深く、史書から極端に逸脱することなく歴史を現代に甦らせている手腕は見事である。ぜひ、多くの人に読んでもらいたい名著だと思う。
不朽不撓不屈の傑作
過去と故郷を棄て、新天地で自由に生きようとする孫武。
全ては自分の趣味の為に。

過去に囚われ、死んだ父兄を想う伍子胥。
全ては復讐の為に。

こういった『対比』は海音寺作品の典型であり、本作はその真骨頂でもあります。

作中で伍子胥が孫武に語る「許由」(古代中国伝説上の偉人。卓越した為政者でありながらそれを世に活かすことを忌んで隠遁。道教ではそれを高く評価して一神に据えた《申公豹と統合して》)観は、それだけで本書を一読も二読も価値あるものにしています。

要約させていただくと「天が人に才を与えたのは、その人をして世を救わしめるため。それを、わが身可愛さに隠遁などして、何の徳でしょう」といったことですが、このくだりは是非、ご自身の目で味わって頂きたい。

他にも、戦争や人生にまつわる著者の哲学が鏤められた傑作です。
引っ込み思案な孫子
孫武と孫繽ふたりの性格描写がたいへんおもしろい!とくに孫武。
 孫武は、各地の戦地跡を調べたり、古今の戦争を分析したりする戦争マニアで、口うるさい妻に頭があがらないというちょっとさえない人物。でも、いったん戦争・戦術の話題になるとその弁舌は圧倒的冴えを発揮し、実戦でも将軍として軍を連戦連勝に導く。この描写のギャップが楽しい。
 また、政治の世界の権力にからむ欲望や人間性のいやらしさなどもよく描かれており、中国古代の人間模様が生き生きと描かれている。当の孫武は、それを嫌って、栄華の頂点にいるうちに職を辞し、田舎に隠遁してしまう。
 海音寺さんの小説には、簡潔な描写とスピーディな展開で、読書を飽きさせることなくぐいぐい引き込んでいく力がある。本書は中国古代史と人間孫子とをじつにうまく描いた物語に仕上がっており、たいへんおもしろく、あっという間に読み終えた。おすすめです。
ふだんは弱気な孫子
 孫武と孫繽ふたりの性格描写がたいへんおもしろい!とくに孫武。
 
 孫武は、各地の戦地跡を調べたり、古今の戦争を分析したりする戦争マニアで、口うるさい妻に頭があがらないというちょっとさえない人物。でも、いったん戦争・戦術の話題になるとその弁舌は圧倒的冴えを発揮し、実戦でも将軍として軍を連戦連勝に導く。この描写のギャップが楽しい。
 また、政治の世界の権力にからむ欲望や人間性のいやらしさなどもよく描かれており、中国古代の人間模様が生き生きと描かれている。当の孫武は、それを嫌って、栄華の頂点にいるうちに職を辞し、田舎に隠遁してしまう。

 海音寺さんの小説には、簡潔な描写とスピーディな展開で、読書を飽きさせることなくぐいぐい引き込んでいく力がある。本書は中国古代史と人間孫子とをじつにうまく描いた物語に仕上がっており、たいへんおもしろく、あっという間に読み終えた。おすすめです。
二人の兵法家の生涯を描く
孫子と孫びん。2部構成で天才兵法家の生涯を描く。
著者ならではの人間くさい描写で独特の人物像を形成。2000年以上前からこんな兵法を考えるとは驚愕と言っていいでしょう。伍子胥も随所に登場するので孫氏、孫びん、伍子胥の歴史がわかってしまうお得な一冊です。


西郷と大久保 (新潮文庫)
海音寺 潮五郎   新潮社   新潮社  
征韓論
征韓論のくだりを読んで思った。
劇的な展開とも言えるし、
間延びした話でもある。
三条公が卒倒して
形勢が逆転するあたり、
不思議な話でもある。
大久保が西郷を退けようとした理由は
何なのだろう。
対外認識の差があったのなら
どのように違ったのだろう。
悲しくも美しい男の友情。
西南戦争で結果的に幼なじみで親友を結果的に切り捨てた感のある大久保。実際には彼なりの理想の実現であり、その根底にはいつも西郷への敬慕と友情がありつづけた。そんな彼らの若くまさに雄飛せんとするころに焦点をあてた作品である。ストレートに理想にむけ進む西郷に対し、目的に向け着実ひとつひとつ変化球をおりまぜながら進む大久保。やりかたも性格も異なるこのふたりに共通していたものは互いの理想、そして友情である。歴史的結果だけをみたのでは感じることの出来ない世界がここにあります。

武将列伝 戦国爛熟篇 (文春文庫) 武将列伝 戦国爛熟篇 (文春文庫)
海音寺 潮五郎   文藝春秋   文藝春秋  

大化の改新 (河出文庫) 大化の改新 (河出文庫)
海音寺 潮五郎   河出書房新社   河出書房新社  

武将列伝―戦国揺籃篇 (文春文庫) 武将列伝―戦国揺籃篇 (文春文庫)
海音寺 潮五郎   文藝春秋   文藝春秋  

幕末動乱の男たち〈上〉 (新潮文庫) 幕末動乱の男たち〈上〉 (新潮文庫)
海音寺 潮五郎   新潮社   新潮社  

江戸城大奥列伝 (講談社文庫) 江戸城大奥列伝 (講談社文庫)
海音寺 潮五郎   講談社   講談社  

武将列伝 源平篇 (文春文庫) 武将列伝 源平篇 (文春文庫)
海音寺 潮五郎   文藝春秋   文藝春秋  
史伝文学−源平編
海音寺潮五郎は、昔から好きな作家の一人である。西郷南州の人物に多少は近寄れたのも彼のおかげであったし(とはいえってもやはり相当の隔たりがあるのだが)、司馬遼太郎や山路愛山も手軽に読める物がなくなれば、やはり海音寺潮五郎に帰るほかないのである。
武将列伝もかなり昔に一度読んでいると思うが、手元に残っていないので、この新装版を買ってあらためて読んでみた。

源平編で扱われているのは、源氏から義平、頼朝、義仲、義経の4人と、平清盛、楠木正成の合計6人。義平の武者振り、清盛の出世、頼朝の不幸と異常、義仲の意地、義経の天才、正成の清白さがよく描かれている。
今回最も印象に残ったのは正成である。海音寺は、正成の清白さには、生来の性質だけでなく学問による修養と信念があったはずだとし、宋学の大義名分論に言及している。そして、正成は時勢を知りながらも節義のために死んだとし、「倫理というものは、往々にして時勢の流れと逆行することがあるが、それでも長い目で見れば、人生に寄与していることが少なくない」と述べている。正成がいたからこそ、幕末もあり得たのだろう。
読むに価する史伝人物伝であると思う。

平将門 (上巻) (新潮文庫)
海音寺 潮五郎   新潮社   新潮社  

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