散りぎわの花 (文春文庫)
小沢 昭一 文藝春秋 文藝春秋
水の流れるごとくの流麗な名調子
この書は故米原万理の「打ちのめされるようなすごい本」の中に紹介されていたのがきっかけで読んでみた。
文章を書くことは苦手と謙遜されているが、まるで小沢昭一さんの声が聞こえてくるようで、米原さんではないけれど声に出して読みたくなるほどの名調子。俳句に精通しているだけに、小気味よく軽妙な筆致である。
内容はこの十年くらいに書かれた新聞、雑誌などのエッセイや本の後書きなどを集めたアンソロジーである。
少年時代から現在までの遊びにまつわること、俳句や落語の話、自分と関わりのある著名人との思い出話などが中心で、懐かしい話も多く、肩の凝らないそれでいて人生の真理を穿つような内容である。特に本書の中の「江國滋さんをしのぶ」は感銘を受けた。
「幸せは、ささやかなるをもって極上とす」(本文P225)は、けだし至言。読んで心が晴れ晴れとしてくる本で、特に中高年にはお勧めである。
小沢昭一がめぐる寄席の世界 (ちくま文庫)
小沢 昭一 筑摩書房 筑摩書房
寄席大好きで聞き上手な小沢昭一さんならではの、傑作対談集。
2004年に朝日新聞社から単行本で発行されたばかりなのに、うれしい文庫での発行。
対談集なのだが、相手の選び方が“小沢昭一的こころ”で素晴らしい。
落語家は桂米朝師匠と立川談志家元という大御所、泣きの桂小金治に笑福亭鶴瓶、
そして41歳で入門という柳家り助(現麟太郎)の5名。相手に応じて聞き上手な
小沢昭一さんが、語らせたい部分を無理なく引き出してくれている。
名人の幇間は聞き上手だというが、聞き手の小沢さんにそんな名人芸を見る思いだ。
研究者の立場から延広真治、講談から神田伯龍師匠(ご冥福をお祈りします)、浪曲
界からは元気な国本武春。あした順子・ひろしの両師匠の話には、お二人の芸歴に
関する多くの発見があり、基本が出来ているから何度も楽しめる芸なのだなぁ、と
納得。これからも活躍していただきたいし、一席でも多くお二人の芸に接したい。
出囃子の小松美枝子さんの話には、寄席の裏舞台を少し覗かせてもらう楽しさが
あった。末広亭席亭北村幾夫さんには祖父銀太郎大御所からの伝統をぜひ守って
欲しい。トリを俳句仲間の矢野誠一できっちり締めるというのも、よく出来たある
日の寄席のようでなかなか考えられた構成だ。
とにかく寄席の灯を消さないで欲しいし、そのためには、また寄席に行かなくては、
と思わせてくれる。小沢昭一さんの若々しいポジティブな姿勢にも刺激を受けた。
寄席ファン、落語や演芸ファン必読の好著である。
流行り唄五十年 唖蝉坊は歌う 小沢昭一 解説・唄 (朝日新書 105)
添田 知道 朝日新聞出版 朝日新聞出版
小沢昭一的新宿末廣亭十夜
小沢 昭一 講談社 講談社
単に笑わせるだけでなく、おもわず、ホロッとさせる
TBSラジオに「小沢昭一の小沢昭一的こころ」という、もう30年以上も続いている長寿番組があります。
「小沢昭一的」という芸風を確立した著者に、ある日、
寄席へ出てみませんか。
それも、ちょこっとゲスト出演なんていうのではなく、10日間
みっちり出演してみませんか。
というお誘いがありました。
しかも、出演打診があった寄席は新宿の末広亭。
著者は、子どものころに末広会という後援会に入っており、楽屋へもぐりこんだり、表で客寄せしたりと、いろいろ手伝った思い出がありました。
せっかくのお誘いですから、……と出演した高座の様子を実況中継したのが本書です。
いやぁ、もう、小沢昭一ファンには、たまらない一冊です。
まず、本の作り方に凝っています。
字体が普通の本と違う。通常の本を行書とすれば、草書のおもむきを醸し出しています。「と」の縦棒などはグサッとつきぬけていて、老眼ぎみの私が油断していると、「も」に見えないこともありません。
欄外に章の見出しを書いてある部分(柱)が縦書きで、ページ番号(ノンブル)は漢数字。もう、徹底的に舶来ものの雰囲気を排除しています。
なんとも、小沢昭一さんの語り口、寄席のふんいきを伝えようという、心憎い配慮じゃありませんか。
下座の三味線は、ラジオの「小沢昭一的こころ」のテーマ曲。今は亡き山本直純さんが作曲したものです。
客席から「待ってました!」の声があがると、
「待っててくださったほどのお話もできないんですけど。(爆笑)」
と、小沢昭一節がはじまりましたよ。
小沢さんの話は、単に笑わせるだけではありません。おもわず、ホロッとしてしまうところが持ち味のひとつですよ。
私も、本書を読んで心の中で3度泣きました。
いやぁ、いい本を読みました。
誰かと、この満足感を分かち合いたい気持ちになりましたよ。
残念
文字にしたことで理解しやすくなった部分はあるが、音、調子がわからないというのは致命的である。
もちろん、「これぞ話藝!」の片鱗に触れることはできて、買わなきゃ良かったと後悔するほどではないが、録音はあるのだろうから、ぜひCDにして発売してもらいたい。
「今日は、下品なことを聞く方がこれだけ大勢おいでいただいたわけですが。」とあるのは、折角文字にするのだから「・・・聞く方に・・・」あるいは「・・・大勢おいでくだすったわけですから。」と訂正することは出版社として最低限の義務であろう。
a cappellaの説明についても、正しくは無伴奏合唱体のことである旨の補注は必要である。
珍奇絶倫 小沢大写真館 (ちくま文庫)
小沢 昭一 筑摩書房 筑摩書房
人類学入門―お遊びと芸と (小沢昭一座談)
小沢 昭一 晶文社 晶文社
川柳うきよ大学 (新潮新書)
小沢 昭一 新潮社 新潮社
数年前を思い出しながら楽しめる。
平成の世相を反映した一般公募の川柳が盛りだくさんである。読んでいると、ほんの数年前のことでも「懐かしいなあ」と感じられる。川柳のできも優れている。楽しみながら平成の世を振り返ることができる。
小沢昭一がめぐる寄席の世界
小沢 昭一 朝日新聞社 朝日新聞社
豪奢な本
朝日新聞社の「論座」時としていい企画を立てる。福田和也と磯崎新の建築談義。そして本書の基になった連載。寄席の「世界」という名に恥じ無い、語り部山脈の威容。
若い時は話の数をこなし年をとったら芸を磨く、という会話を米朝と交わし、小金治とは川島雄三の思い出や『芝浜』の解釈をめぐる応酬、鶴瓶は「しのぐ」ことのプロ意識を語り、談志には小さんのもとにいたら、との反実仮想を漏らす。最後、矢野誠一との会話では志ん朝の語り口を惜しむことで内容を引き締める。
2004年の棹尾を飾る一冊である。
本邦ストリップ考―まじめに (小沢昭一座談)
小沢 昭一 晶文社 晶文社
川柳うきよ鏡 (新潮新書)
小沢 昭一 新潮社 新潮社
平成を振り返る
平成の世相を反映した一般公募の川柳が盛りだくさんである。読んでいると、ほんの数年前のことでも「懐かしいなあ」と感じられる。川柳のできも優れている。楽しみながら平成の世を振り返ることができる。
粋で楽しい本
本書は雑誌「小説新潮」の川柳投稿欄から、選者である小沢氏が9年間の名品を解説付きで紹介した本である。まず掲載誌が小説の月刊誌であるから、読者は自ずと限定される。そこへ投稿をしようとする人々たるや、これは相当のヒマ人、もとい粋人であるに違いない。だいたい私は素人投稿を頭から軽蔑しているけれど(そういえばこのレビューだって素人投稿、自分も半分素人、この矛盾はどうしよう?)、さすがにここで紹介されている句は一種の文芸エリートたちの作品だけあって、面白い。小沢氏の幾分お下品な解説も秀逸である。
小沢昭一は各種の放浪芸など、地べたを這うような「庶民」の芸を紹介することに力を注いでおり、これは大変敬服に値する。この本もそうした「小沢昭一的こころ」の発露であるに違いない。なかなかに味わい深い逸品である。
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