静かなノモンハン (講談社文芸文庫) 静かなノモンハン (講談社文芸文庫)
伊藤 桂一   講談社   講談社  
日本人の経験した大戦車戦
昭和58年2月刊行
翌年 
第34回芸術選奨文部大臣賞及び第18回吉川英治文学賞受賞

戦車と言えば、ドイツの機甲師団がまず思い浮かぶが
古くは騎馬隊その後の騎兵隊が同様の意味を持つと思われる。

日本にも有名な戦車戦があったようだ。
ソ連が鉄道網で補給を準備して来たのに対し、
徒歩での行軍五日に及んでの戦い。

航空戦の緒戦こそ飾ったものの
大勢を決めた地上戦においては
此方には戦車は残らず(一部後方へ退避させた?)
速射砲(対戦車砲)も破壊され最終的には
集団のソ連戦車隊(火炎放射器も装備)に肉迫、取り付いた上、
支給のサイダーの空き瓶の火炎瓶で燃やすか、
円匙(野営用シャベル)で機銃を叩いて曲げ
砲身に手榴弾を結びつけて戦闘不能にする事で応戦しながらもほぼ全滅に至る。
僅かに生き残っても前線の状況は戦後まで、口外が許されない状況だった。

この作品は軍務経験を持つ著者が
三人(当時の上等兵、衛生兵、少尉)の体験者に取材したもの。
あとがきでは「多くの、死者生者の魂に、私は、とりかこまれ、励まされながら、執筆をつづけてきた、格別に切迫した経験がある。」と述べている。

巻末に参考資料として司馬遼太郎(関東軍戦車連隊の小隊長だった)との対談があり、氏が何故ノモンハンを書けないかが記されている。

兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫) 兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)
伊藤 桂一   新潮社   新潮社  
穏健で公平
 冒頭で「穏健で公平」な立場を心がけたとあるように戦争に対してイデオロギーを極力排して実際の軍隊がどのような生活を送っていたかということが書かれてあります。
兵隊たちは天皇のために戦ったのではなく「お国のため」の戦ったということ
内務の私的制裁よりむしろ戦場の方が開放感があった
など、何となく心情がわかるような気がしました。
中国に軍隊が駐留していたこと自体、現在の感覚からすれば奇異な感じですが歴史の連続性の中でこのような時代があったことを忘れてはならないと思いました。
「兵隊」というリアリティ
「戦後」も63年目となり、「戦前」はひたすら遠くなるばかりである。
戦前の日本人にとっては、常識であった「兵隊という存在」について、私たちはまったくイメージを持てなくなっている。かつては日本人男性が生涯に必ず一度は経験した兵営の暮らしも、歴史の霞の彼方に消えてしまっている。

本書は、「兵隊」という存在のリアリティを具体的かつ詳細に記述したものだ。
筆者にとってはただひたすら現実でしかない事どもの1つ1つが、実に異様で、実に面白い。まるで良くできたファンタジー小説のように、現代と異質であり、かつリアルなのだ。兵営での暮らしの厳しさと滑稽さは、体験したものにしか書けないリアルさに満ち、かつ今日の暮らしとの懸絶が凄まじい。「兵隊は抑圧に満ちた内務生活よりも戦場に行くことを喜んだ」という記述など、本当に経験者でなければ書けないことである。

戦争を経験し多世代が、このような貴重な記録を書き残してくれたことに感謝したい。
なお、本書は1969年に刊行された同名の書籍の再刊である。文体・表現等、40年を経てなお清新であることにも驚かされる。

蛍の河・源流へ―伊藤桂一作品集 (講談社文芸文庫) 蛍の河・源流へ―伊藤桂一作品集 (講談社文芸文庫)
伊藤 桂一   講談社   講談社  
静かなる穏やかさ。
時に、本を読むと自分の知らない作家がまだまだ
たくさんいることを思い知らされることがある。

本書は、まさにそんな感じを与えてくれる作品群だった。
表題二作をはじめ、どの作品にも貫かれているのが
静かであること、そして穏やかであること。

しっかりと抑制が効いた作品には、好き嫌いが分かれるかも
しれない。
でも、
この穏やかさは、彼にしか出せない味なのだ。

若き世代に語る日中戦争 (文春新書) 若き世代に語る日中戦争 (文春新書)
伊藤 桂一   文藝春秋   文藝春秋  
戦史が、いま、あたらしい−GHQの呪縛を解く最後のチャンス
書評で見かけて気になり、本日購入。一読、忽ち引き込まれた。60数年前の中国大陸における兵隊さんの日常と、時折の命懸けの戦闘が、それを体験した著者本人の手で実に淡々、且つ生き生きと述懐されている。
 一次資料の力(真実)は、為にするでっち上げのプロパガンダより遥かに強いと、改めて実感した。
やはり、ある時代、ある状況に居合わせた人でなければ、その時代のことは理解が難しいのだ。 しかし、それを実現するのが戦史を書く人の筆力であり、それを読み解くのが戦後世代の債務だと思う。


もう間に合わなくなりつつあるが、せめてご存命の戦中派(就中、軍隊経験のある方)は、御自分の体験を子供・孫・若者・研究者に語り伝え、できるものなら自ら書き残して頂きたい。

読了してから奥付を見たら「諸君!2007年8〜11月号の連載に加筆修正」とある。既読感があったのは、実は数ヶ月前に一度読んでいたからであった。 しかし、新書になって散逸することがなくなり便利になった。 どの年代の人にも、お薦めする。
日本は昔も今も自己宣伝が苦手
なんとなく侵略戦争ということになっている日中戦争=支那事変の実態を、
北支・中支戦線に足掛け7年従軍した著者が、奥村土牛の孫娘の問いかけに応じ、
わかりやすく解説する。
慰安婦と駆け落ちした兵隊、みんなが首を長くして待った慰問袋、国府軍や
八路軍の動向を通報してくれる村人。日本軍も道路を作ったり学校を建てたり、
戦後残ってくれと懇願された衛生隊もあった。

それにしても支那事変というのは妙な戦争だったようだ。
何であんなに広い中国に兵を展開して8年も戦わなくてはならなかったのか。
日本軍は元々警備のつもりだったのに、国府軍にうまくおびき寄せられてしまった。
逃げる国府軍を追討する。そこへ八路軍が挑発する。それを深追いして逆にやられる。
そうかと思うと、日本軍の目の前で国府軍と八路軍が戦闘をやりだす。同盟軍のはずの
汪兆銘軍が国府軍に寝返る。敵と勘違いして日本軍が汪兆銘軍と同士討ちする。
もうぐちゃぐちゃになって、いつのまにか戦線が大陸に拡大し、やめるにやめられず、
終わってみれば侵略だと決めつけられた。国際世論を味方にした国府側にしてやられた。
戦闘に勝って情報戦・思想戦に完敗した。
支那事変の一部始終を見ると、なんとなく現在の日中関係にも通ずるものがある。

思想ではなく一人ひとりに敬意を
 私達は「戦争に負けた人の話なんか聞きたくない」「南京で虐殺をした人の話も聞きたくない」と思っているのではないでしょうか。そして、戦争に駆り出されて死ぬ覚悟をきめて戦った一人ひとりの人間のことを知らないで済まそうとしているのではないでしょうか。果たして彼らに敬意を払っているでしょうか。そういった大正生まれの戦中世代はあと10年もすればこの世からいなくなってしまいます。昭和の戦争が本当の「歴史」になってしまう日が近いです。この本は戦中世代からの貴重なメッセージだと思いました。
コンパクトに日中戦争と日本軍について学ぶために
日本では未だに占領下の洗脳工作(W.G.I.P)が効いているせいか、「戦争」「日本の戦争」と聞くと途端に過剰な拒否反応を起こしてしまう人が多い。「日中戦争」と聞くと、「侵略して中国人を虐殺した!」と贖罪意識に陥ってしまう人が多い。そんな人、こういった本を一度は読んでみてください。
個人的に、近代史をよく勉強しているため、そこで培った史観を裏付ける証言本という印象ですが、学校教育だけ受けた人たちには、驚くような内容かもしれません(個人的には「中共軍って意外と厄介だったんだな」ってのが新鮮でした)。

中共史観によれば日本軍VS中共軍ですし、日本の一般的な史観だと日本軍VS中国軍ですし、少し勉強した人にとっては日本軍VS国民党軍(時々、中共軍)だろうと思うので、時に、日本軍&国民党軍VS中共軍といった構図は意外に思うかもしれませんね。そんな複雑な構図が日中戦争なのです。
「ここに書いてあることは嘘!」と頑なに反発する左翼は単なる勉強不足かホラ吹きでしょう。
そもそも、歴史を学ぶことは保守的な作業であり、歴史を破壊することが左翼の任務なのですから。

本書は中国戦線に7年間、従軍した元兵士へのインタビュー形式の証言であり、雑誌「諸君」に連載されたものであるが、未読だったため楽しめました。戦中世代から戦後の日教組教育世代へと語る切実なメッセージである。


かかる軍人ありき (光人社名作戦記) かかる軍人ありき (光人社名作戦記)
伊藤 桂一   光人社   光人社  

ひまわりの勲章―実録兵隊戦記 (光人社NF文庫)
伊藤 桂一   光人社   光人社  
後世に残したい戦記小説
 「復員船の出来事」ではモルヒネ中毒の少佐が、「中隊長、夕陽の丘へ」では職責を果たすことができない中隊長が登場します。人の上に立つ者がこれでは悲惨な結果になってしまいます。
 戦場で戦死してもなんのために死んだのかわからないような死ばかりだったと思います。「ひまわりの勲章」をはじめ全編にそんな戦場の死にも意味を持たせようとする著者の人間的な温かみを見ることができました。

秘めたる戦記―悲しき兵隊戦記 (光人社NF文庫)
伊藤 桂一   光人社   光人社  

かかる軍人ありき (伊藤桂一戦記文学シリーズ)
伊藤 桂一   光人社   光人社  

夕陽と兵隊―終わりなき戦旅
伊藤 桂一   光人社   光人社  

大浜軍曹の体験 大浜軍曹の体験
伊藤 桂一   光人社   光人社  

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